目次

1.現代の死亡率

現代では死亡率の多くが生活習慣病と言われています。厚生労働省の調査によると、2021年の死亡率1位は悪性新生物 (がん) で全死亡者に占める割合は26.5%、2位は心疾患(高血圧を除く)で同14.9%、3位は老衰で同10.6%です1)。死亡率で比較すると特に「がん」での死亡率が2位と比較すると10%以上高く、全死亡者の4分の1以上を占めています。近年の医療の進歩により、この「がん」へ対する治療法になりえるのではないかと考えられている治療法があります。その治療法は「オミクス解析」を用いた治療です。今回はオミクス解析について紹介しようと思います。

2.オミクス解析とは

オミクス解析とは、体の中に存在する分子全体を調べる技を表す言葉 (オミクス) と、調べること、調査すること (解析) を合わせた言葉で、体の中に存在する分子全体を網羅的に調べることを言います2)。オミクス解析とは言っても様々な種類があり、細胞内の部分ごとで解析名が変わります。遺伝子 DNA の場合はゲノム解析、DNAの転写物 mRNA の場合はトランスクリプトーム解析、mRNA の翻訳物のタンパク質の場合はプロテオーム解析、タンパク質を分解した代謝産物の場合はメタボローム解析と言います2)。また、これらの解析を統合し、生命現象を包括的に調べるという解析法を総称して統合オミクス解析と言います。この統合オミクス解析の発達は人間を含めた生態系の解明につながります。

3.オミクス解析の種類

次に各解析方法を簡単に説明します。

3.1.ゲノム解析

細胞内のDNA が持っている4種類の塩基(A, T, G, C)の文字の配列を遺伝情報 (ゲノム) と言います。このゲノムの塩基配列を解読することをゲノム解析と言います2)

3.2.トランスクリプトーム解析

トランスクリプトーム解析は、細胞内でDNAから転写されたmRNAの全体 (トランスクリプトーム) を解析する解析方法です。ゲノムは生物のすべての細胞で均一なのですが、DNAから転写されたmRNA は、組織や異なった環境、時間等様々な要因で発現する数や量に違いがあるため、トランスクリプトーム解析と言っても解析方法が複数あります2)。

3.3.プロテオーム解析

プロテオーム解析は細胞内にある、複数の働きや複合体を作るなどの多様性を持っているタンパク質を使用し、その瞬間に発現しているすべてのタンパク質を解析する方法です2)

3.4.メタボローム解析

メタボローム解析は、体内に存在する代謝によって作り出される糖や有機酸、アミノ酸、脂肪酸などの低分子化合物の数千種類におよぶ分子を網羅的に解析する解析方法です2)。具体例として、人間の糞便などの代謝物でメタボローム解析を行います。

これらの各部分ごとの解析を駆使して、人体の解明や医療発展に貢献しています。

4.オミクス解析の歴史

オミクス解析が行われ始めてから、現代の水準で解析されるまでには解析技術の向上だけではなく様々な要因が関係しています。

現在の技術水準に至る前、ヒトゲノム解読を含むオミクス解析を行うのは数千億円を超える多額の費用が必要で3)、尚且、機能が分からない塩基配列が数多く存在しました4)。しかし、ランダムに切断された数億のDNA断片の塩基配列を同時並行で読み取る技術の発達で、1人分のヒト全ゲノム配列の解読に対してかかるコストは大幅に下がり、データの生成速度に関しても数千分の1程度に減少したと言われています5)。またIT技術の進歩により大規模データの取り扱いが容易になり、疾患の発症および経過の長期的な追跡を行う調査事業のバイオバンクも急速に進められ、ゲノム情報の大規模な蓄積も行われています6)

5.医療への転用

このようにオミクス解析の発達及びIT技術の進歩により様々なことが明らかになってきており、その中でも遺伝子の多くは単体で機能するのではなく、複雑な経路やネットワークやシステムに基づいて機能しているらしいことが明らかになってきています 。さらに遺伝子のごくわずかな変異とがんや遺伝性疾患などの病気との間に関連性がありそうだという点が注目されるようになりました。人間のゲノムには個人差がほとんどありませんが、ごくわずかな差異 (全体の約0.1%) があり、塩基配列のたった1文字が異なるだけで人間の特徴として大きな個人差を生み出しています。このゲノムの差異を理解することが、人間の健康と病気に関する原理とメカニズムを把握する上で重要になってきます4)

このように個人一人ひとりがどのような遺伝子を有しているか、その発現に強弱があるか、変異はないか、また、どのようなタンパク質が発現していて、どのようなシグナルが働いているかなどのこれらの解析で得られた情報を活用し、疾患の予防、診断、治療、予後の質の向上を目指す医科学研究の名称をオミックス医療 (Omics-based Medicine) 研究と言います8)

6.オミクス解析を利用した今後の展望

従来の治療法では、「高血圧にはこの薬を」といったように、主に疾患の種類や程度に応じた治療法が採択されていますが、人によって薬の効き目が異なったり、副作用が発生したりする可能性も否定できません9)。しかし、オミクス研究が進むにつれ、個人個人の体質や環境、病態などを調べて、それらに合った薬を開発・投与するなど、患者さん一人ひとりに最適な医療を提供する方法 (テーラーメード医療) の実現も決して夢ではなくなって来ているのです。

また、高血圧やがん、生活習慣病の3割から4割は遺伝的な要因による、とみられています。今後、さらに研究が進み、微妙な個人差が解明されれば、テーラーメード医療の実現化だけでなく、生活習慣病の予防対策など、医学への貢献が期待できると思います9)

オミクス解析は医療に限った話ではなく、食品に関しても利用できます。例えばオミクス解析を利用し高血圧やがんなどの生活習慣病の予防に効果のある成分や原料を発見することが出来れば、医学への貢献ができ、食品業界をさらに盛り上げることが出来ると思います。
オミクス解析の発展により、多くの人が今までより健康で質の高い生活を送ることが出来るようになることを期待したいです。

7.オルトメディコのニュートリゲノミクスサービス

オルトメディコでは、早稲田大学の原太一先生のご協力のもとオミクス解析を用いて、食品をメインとしたバイオマーカーの分析及び解析業務を行っております。食品のバイオマーカーの分析及び解析にご興味のある方はお気軽にご連絡ください。

ご連絡先
https://www.nutri-genomics.jp/

8.引用文献