目次

1.オミクス解析とは1

まずマルチオミクス解析を説明する前に、オミクス解析を説明します。オミクス解析は、体内の分子を網羅的に解析する解析を総称したものです。一言にオミクス解析と言っても、取り扱うものによって解析名が変化します。詳しくは下記の表をご確認ください。

解析名 解析物
ゲノム解析 DNA
トランスクリプトーム解析 mRNA
プロテオーム解析 タンパク質
メタボローム解析 代謝物

2.マルチオミクス解析とは2

以前から、遺伝物質であるDNAを分析対象とするゲノム解析や、生体サンプルにある代謝産物を調べるメタボローム解析など、それぞれ単独のオミクス解析手法として行われ、生態系の解明を行ってきました。解析技術が進展するにつれて、一種類のオミクス解析の情報ではわからなかった情報や、新しい知見を得られるのではないか、ということで行われている、一種類ではなく複数のオミクス解析を統合して行う解析を「マルチオミクス解析」と言います。このマルチオミクス解析は、以前までは理論上では解析可能とされていました。けれども、解析方法や大量のデータを扱うのが難しいなどの技術的に難しく、なかなか実現されませんでした。しかし現代では、オミクス解析の技術が向上に伴う解読にかかるコストの大幅な減少、バイオデータの大量貯蔵及び処理などによってマルチオミクス解析が実現されてきています。

3.マルチオミクス解析ができるまで2, 3, 4, 5

マルチオミクス解析は、前の節でも記載したように、長い間考えられては来ましたが、近年まで実現が難しい解析でした。本節ではマルチオミクス解析ができるまでについて3つの視点で記載いたします。

3.1. オミクス解析視点

現在の解析水準になる前、ゲノム解析などのオミクス解析はとても大変で、多額の費用が必要になっていました。さらに、解析したものの機能が分からない塩基配列なども多数存在し、現在に比べて解析が難航していました。しかし、研究が進むにつれて塩基配列を同時並行で読み取る技術などが発展していき、解読にかかるコストが大幅に下がり、以前よりも解析しやすくなりました。

3.2. データ処理視点

ゲノム解析を含めたオミクス解析では、とても大量の解析データを大量に蓄積する必要があります。以前はこの大量のデータを効率的に解析・処理をすることが難しくありました。なぜなら、従来からよく使用されているRDB (リレーショナルデータベース) は膨大なビックデータの処理には適していないためです。そのため、オミクス解析に「データ処理」という項目で限界が存在しました。しかし、NoSQLによるビックデータの処理や、データ解析などの向上に伴い、以前よりも大量の解析データを取り扱いやすくなり、オミクス解析のデータも扱えるようになりました。

3.3. AI視点

マルチオミクス解析では、AIの進歩も欠かせません。実際にAIが発達する前は、オミクス解析で得られた大量の情報を効率よく処理できませんでした。AIの進歩に伴い、AIに学習させ、ビックデータから様々な特徴や情報を引き出すことが出来るようになりつつあります。今後もさらに発展していき、活躍していくと思われます。

4.マルチオミクス解析の医療展開6

本節では、実際にどのようにマルチオミクス解析が使用されているのかを紹介します。
例えば、静岡県立静岡がんセンターは株式会社エスアールエルと共同で「プロジェクトHOPE」という「理想のがん医療としての個別化医療と未病医学の実践を目指す」臨床研究を2014年1月より開始しています。本臨床研究は、がん患者のがん細胞を用いて、がんの性質を、ゲノム解析やトランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、メタボローム解析などを統合したマルチオミクス解析により明らかにし、その成果をもとに新しいがん診断・治療技術の研究・開発を進めることを目的としています。また、被験者の体質についてのゲノム解析の結果を参考に、“未病の思想”に基づく医学、すなわち“未病医学”の推進に努め、解析結果や分析試料は被験者別に保管され、将来、新たな治療法や解析技術が生まれた場合、その患者さんの個別化医療や“未病医学”に活用していく臨床研究です。実際に5143症例の被験者から採取した新鮮凍結腫瘍組織をマルチオミクス解析した結果をまとめています。

5. まとめ

マルチオミクス解析は、近年注目されている解析です。解析技術やビックデータの処理、AIの進歩など、さまざまな要因が重なり合って実現しています。また、マルチオミクス解析の特性上、DNAやたんぱく質、代謝物など、いろいろな視点から解析することが出来ます。さらに、蓄積していたデータも活用できるため、今後ますます注目されると思います。実際に、前節の医療業界以外でも食品業界でも転用できます。例えば、企業が持っている食品素材を解析し、その食品素材が持っていない新たな機能性の断定に使用したり、既にある安全性データと比較して安全性を確認したりと、医療業界以外でも、ありとあらゆる場面でさらなる活躍が見込めます。なので、マルチオミクス解析が発展していき、私たちの生活がより良くなることを期待しています。

6. オルトメディコのニュートリゲノミクスサービス

オルトメディコでは、早稲田大学の原太一先生のご協力のもとオミクス解析を用いて、食品をメインとしたバイオマーカーの分析及び解析業務を行っております。またマルチオミクス研究にも対応可能です。食品の機能性のスクリーニングやメカニズム解明にご興味のある方はお気軽にご連絡ください。

7. 脚注